「相続を行うには遺産分割協議書を作らなきゃいけないっぽい?」
相続人となっていろいろと調べるうちに行き着く遺産分割協議書について。
でも実際にどういうものなのか、どう作成すればいいかすらも分からないことが多いのではないでしょうか。
そこで今回は、相続するために必要な遺産分割協議書の書き方や注意点について解説します。
- 遺産分割協議書は自分で作成することはできるのか
- そもそも作成する必要がないケースについて
- 協議書作成における注意点や費用など
といったようなトピックを取り上げます。
基本的な部分から少し掘り下げた内容まで、分かりやすく解説していきましょう。
遺産分割協議書のキホン
まずは「遺産分割協議書」のキホンについて解説いたします。
遺産分割協議書とは、相続人全員で決めた遺産の分割内容を記した証明書です。
こうした書類を作成しておくことで次のようなメリットがあります。
- 相続人全員で合意した分割内容を第三者に示すことができる
- 相続予定の預金口座が多い時、協議書の提出で手続きが完了する
- 相続人どうしのトラブルを防ぐことができる
またこの書類を作成するためには、あらかじめ相続人同士で遺産の分割方法を決める遺産分割協議を開く必要があります。
相続の手続きは本当にいろいろな段階を踏む必要があるため、もし必要な相続手続きやその流れを知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
遺産分割協議書の必要性について
遺産分割協議書を作成することで相続手続きが行えることが分かりましたが、そもそも協議書の作成が必要ないケースも存在します。
ここからは必要な場合と不要な場合について解説していきます。
遺産分割協議書が必要なケース
つぎの5つのケースに該当する場合は遺産分割協議書が必要となってきます。
- 名義変更が必要な財産があるとき
- 相続する預金口座が複数あるとき
- 不動産の相続が発生するとき
- 相続税の申告が必要なとき
- 相続人間でのトラブルが予想されるとき
これらに当てはまる場合は必ず作成した方が良いでしょう。
その理由についてそれぞれ解説します。
名義変更が必要な財産があるとき
以下のような相続財産の中に名義変更が必要な財産がある場合、権利の所在を明確にするためにも協議書が必要となってきます。
- 不動産
- 有価証券(株式や債券)
- 自動車
- 船舶など
相続する預金口座が複数あるとき
たとえば預金を相続する場合、1つの口座から相続するためには、金融機関が指定する用紙に相続人全員の記入があれば遺産分割協議書がなくても大丈夫です。
ですが複数の口座から相続する場合は口座ごとに全員が記入するので時間も消費するしかなり面倒。
でも遺産分割協議書を作成しておけば、複数の金融機関でも同じ協議書を提出することで相続が可能となります。
不動産の相続が発生するとき
もし相続財産に不動産があるならば、多くの場合で遺産分割協議書が必要となります。
法で決まっている割合で相続を行う場合は協議書がなくても手続きは可能ですが、あまり推奨されていません。
その理由として、不動産を相続した場合は登記を行う必要があるのですが、手続きをした人にしか権利証が発行されないためトラブルに発展しがちです。
また複数人で相続した場合など、その不動産を売却する際の合意形成が難しいことや、継承者が増えたりすると誰に権利があるのか収拾がつかなくなってきます。
こうしたトラブルを防ぐためにも、不動産相続を行う際はかならず遺産分割協議書を作成しておきましょう。
相続税の申告が必要なとき
相続税の申告が必要になった場合でも遺産分割協議書が必要になる場面は多いです。
もし配偶者の税額軽減や相続税が最大80%オフになる「小規模宅地等の特例」という恩恵を受けたい場合などに必要となってきます。
遺産分割協議書が不要なケース
ちょっと意外かもしれませんが遺産分割協議書はかならず必要となるものではありません。
つぎの4つに当てはまるケースであれば、協議書は作成しなくても大丈夫です。
- 相続人が1人だけ
- 遺言書に記載されたとおりに分割する場合
- 遺産が預金・現金のみ
- 法定相続分に従って分割する場合
なぜこれらの場合は不要なのかを解説していきます。
相続人が1人だけ
そもそも相続人が1人だけの場合であれば、相続人全員で話し合う必要がある遺産分割協議を開く必要がありません。
そのため遺産はすべてその一人に引き継がれるので協議書作成は不要です。
遺言書に記載されたとおりに分割する場合
もし遺言書が存在し、遺産の分割方法が記載されている場合は遺言書に従って分割が行われます。
あらかじめ分割方法が決定されているので「分割協議書=遺言書」というような捉え方でOKです。
ただ、遺言書が公証人に作成してもらっていない「自筆証書遺言」というものであれば、家庭裁判所へ検認の手続きが発生します。
そのほかの手続きも発生するため、詳しくは以下の記事をご覧ください。
参考 : 相続手続きの流れを分かりやすく解説!必要な書類や注意するべき期限と費用について
遺産が預金・現金のみ
タンス貯金などのいわゆる故人が自宅で保管していた現金を分け合うのであれば、協議書の作成は必要ありません。
また預金は金融機関指定の用紙へ相続人全員が記入することで引き出すことが可能です。
しかし、預金口座が多い場合や相続人どうしでのトラブルを防ぐためにも、遺産分割協議書を作成しておいた方が無難です。
法定相続分に従って相続する場合
もしも相続財産を法で決まった相続割合で分割する場合であれば作成は不要です。
しかし、不動産が含まれる相続財産で法定相続分とは違う割合で相続登記を行う場合には遺産分割協議書が必要となります。
相続人のケース | 配偶者 (必ず相続人) | 子 (第1順位) | 親 (第2順位) | 兄弟姉妹 (第3順位) |
---|---|---|---|---|
配偶者のみ | 1 | – | – | – |
配偶者・子 | 1/2 | 1/2 | – | – |
配偶者・親 | 2/3 | – | 1/3 | – |
配偶者・兄弟姉妹 | 3/4 | – | – | 1/4 |
遺産分割協議書の作成の流れ
ここまで遺産分割協議書が必要なケースと不要なケースについて解説しました。つぎに協議書作成の流れについてみていきましょう。
まず前提として遺産分割協議書を作成するためには、相続人全員で相続割合を決める遺産分割協議をはじめる必要があります。
ですが協議をはじめる前にもいろいろな手続きを行わなければなりません。
ざっくりまとめると、
- 遺言書の有無を確認
- 遺言書がある場合は検認手続きを開始
- 法定相続人の確定
- 相続財産の調査
- 遺産分割協議の着手
- 承認方法の選択
- 遺産分割協議書の作成
etc…
といったような手続きを踏んでいく必要があります。
また協議書が作成できたからといって終わりではなく、各機関への提出や相続手続きはまだまだ続きます。
相続人は必要な書類を収集したり、火葬やその他の手配など本当に大変です。
めんどうな書類作成や手続きなど、行政書士などの専門家へ一括して任せることがおすすめです。
さらに詳しく相続手続きを解説した記事はこちらをご覧ください。
遺産分割協議書の書き方
「遺産分割協議書が必要なのは分かったけど、実際どう作ればいいの?」と疑問を持つ方もいると思いますので、協議書に記載すべき内容について取り上げていきます。
遺産分割協議書は遺言書と違って決まった書き方やフォーマットが存在しません。
そのため遺産分割協議書は自分たちで作成しても問題ないです。
ただ、必要な項目や押さえておくべきポイントなどが結構ややこしく、誤った状態で書類を提出してしまうと手続きに支障をきたします。
また、どこが間違っていたり記載不備があったりなどを教えてくれることは少ないため、専門知識がないとかなり時間を取られてしまう可能性があります。
専門家に依頼して作成してもらう方が安心で確実です。
▼遺産分割協議書に記載すべき内容は以下になります。
- 被相続人の最後の本籍、住所、氏名
- 被相続人の死亡日(相続が開始した日)
- 相続の内容(相続財産ごとにだれが相続するか。共有の場合は割合も記載)
- 不動産の情報(土地の所在地、地番、地目、地積)
- 不動産の詳細な情報(建物の所在地、種類、構造、家屋番号、床面積)
- 協議書の作成を示す文言
- 遺産分割協議が成立した日
- 相続人の住所と氏名(氏名は相続人本人の自署)
- 押印(実印)
また協議書が複数枚になる場合は契印が必要です。
しっかり記載したつもりであっても、押印忘れや誤情報などがあれば受理されないため注意。
遺産分割協議書を提出する機関
ようやく協議が終了して協議書が完成した時、どこに出せばいいかよく分からないのが次の悩み。
相続財産の種類によって異なる、遺産分割協議書を提出する機関は以下になります。
- 預貯金の名義変更または払い出し ⇒ 該当の金融機関
- 不動産の名義変更 ⇒ 法務局
- 株式などの有価証券の名義変更 ⇒ 該当の証券会社
- 相続税の申告 ⇒ 税務署
- 自動車の名義変更 ⇒ 陸運局
また、遺産分割協議書と同時に提出すべき書類もあるので注意が必要です。
それぞれの機関に提出する書類は以下になります。
- 被相続人が出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
- 被相続人との関係性を証明する住民票の除票と戸籍の附票
- 相続人全員分の戸籍謄本
- 相続人全員分の実印と印鑑証明書
このほか以外にも、提出先によって必要な書類が異なることもありますが、共通するのはこれら4つです。
※提出する証明書は発行後3ヶ月以内のものに限る
遺産分割でトラブルになるケース
よく遺産相続と聞くと、トラブルに発展しがちなイメージがあります。
かならずトラブルになるかと言われるとそうでもないのですが、紛争に発展しがちなケースについて紹介します。
もしあなたがこのようなケースに当てはまるのであれば、慎重に協議を進めていきたいところです。
相続人間でのコミュニケーションがうまくいかない
遺産分割協議はすべての相続人が参加する必要があるため、ひとりでも協力的でない相続人がいるとトラブルに発展しがちです。
たとえ協議したとしても全員分の署名押印がなければ成立はしません。
このときに、話し合いができる相続人のみで協議をすすめて勝手に押印することは許されません。
もし協議に参加できていない相続人が不服として訴訟を起こせば、遺産分割協議書は無効になることが多いです。
また行方不明となった相続人がいる場合は、「不在者財産管理人」を選任して家庭裁判所へ申し立てた後に遺産分割協議を行うことができます。
そのほかにも、判断能力が不十分な相続人がいる場合は、「成年後見人」という代理人をたてて協議を進めることもできます。
いろいろなケースが想定される遺産分割協議なので、「自分の場合はどうなんだろう?」と思った方は行政書士などの専門家へ相談してもよいかもしれません。
ほとんどの場合、相談だけであれば無料または安価で話を聞いてくれる方が多いです。
相続財産が不動産以外ほぼない
もしも不動産以外の相続財産がない場合はトラブルが起こりやすいです。
1つの土地や建物を複数人で分割することは容易ではなく、だれか一人が相続する形となります。
このような場合は、不動産を売却して現金に換えたあとに分割する「換価分割」で対応できます。
しかし、すでに他の相続人が居住している場合は換価分割はできません。
どうしても不動産を相続したい場合は、他の相続人へ財産を与えて解決する「代償分割」があります。
ですが不動産を相続する人は財産が多くないと厳しいでしょう。
遺産分割協議書は公正証書がオススメ
遺産分割協議書は「公正証書」という、証明力と執行力が強い協議書を作成することができます。
そうすることで、相続人同士でトラブルが起こって起こっている場合などに効力を発揮します。
そのほかにも、
- あらゆる相続手続きがスムーズになる
- 安全性、信頼性が非常に高い
- 紛争の防止へつながる
といったメリットがあります。
裁判官や法務局長(公証人)らに証明をさせたものが公正証書となり、原本は公正役場にて保管するため紛失することはまずありません。
また公証人が書類内容をチェックして作成してくれるためトラブルも発生しにくいです。
公正証書にするときの注意点
さまざまなメリットがある公正証書ですが、気をつけるべき点もあります。
- 費用がかかる
- 作成まで時間がかかる
公正証書化するためには多少の費用が必要となり、公証人をたてるために作成に時間がかかります。
きになる費用ですが5000円〜10万円程度が相場となっており、相続財産額によってかなりの幅があります。
3000万円程度の相続額で3万円くらいの作成費用が必要となりますが、相続トラブルへの発展を防ぐ意味でも作成を検討しても良いでしょう。
まとめ
なにかと複雑な相続手続きだからこそ作成しておきたい遺産分割協議書。
その必要性やケース別での解説などの基礎的な内容から、協議書作成時に必要な記載事項についても取り上げました。
協議書自体はじぶんで作ることもできますが、不備があればトラブルに発展したり手続きが滞ることがあるかもしれません。
そうならないためにも、もし相続財産が多額であったり自分で作成するのが不安な方はぜひ専門家へ相談してみてください。
書類作成のプロである行政書士であれば安心して任せることができます。